インタビュアー 小川希/Art Center Ongoing 代表
小川 これまでの作品を拝見させていただき、お二人の作品のアイデアは、ご自身たちが以前どこかで見たり体験したりしたイメージが元になっているのではないかと想像しました。気になることを作品の題材としてストックしてたりするんですか?
山下 制作の発端はそういう記憶に残っているものが割と多いですね。『infinity』という作品も、元は「桑田ロード」ですし。
小川 「桑田ロード」?
小林 ジャイアンツの桑田が、現役時代、肘を痛めて投球練習が出来ない間、下半身強化のためにひたすら球場脇を走り込んでいたら、芝生がはげて道が出来てしまった、という逸話が頭のどこかに残っていて。それで「本当に走って道なんか作れるのかな」と思い、「じゃあ、走ってみようか」ってことになったんです。
山下 ただ、「∞」の形まで持っていくまでには時間があったんですけどね。
小林 二人でずっと走り続けられる道で、且つその形体自体も何かメッセージ性を持ちうるものを考えて、最終的にこれでいこうということになった。
小川 一つのアイデアを作品化するために、どのようにそれを膨らませていくかを二人で話し合ったりするんですか?
小林 膨らませると言うよりは、そぎ落としてゆく感覚の方が近いですね。ただ、具体的に作品にしていく上で、アウトプットの方法まで決めていくのに時間がかかります。眠ってたアイデアに後から形が与えられたり。
山下 現実に事を起こすのにも興味があって、それが作品に転ずることが多いですね。だからビデオ作品なんかは記録的なものが多い。
小川 行為を作品化するということですか?
小林 元々は、パフォーマンス的なアプローチでもなかったんですけどね。ただ、作品を作るというよりか、現実をいじっていくことの方が楽しくって。
山下 自分たちもわくわく出来るようなことだと尚良いっていうのがあるんですよね。だから割とチャレンジしていくようなことが多いですね。
小林 作品のアイデアは、頭で考えるだけだと本当に出来るかどうかわからないものが多くて、ただ、わからないほど面白いんですよね。
小川 コンセプトをガチガチに作るというよりは、あるアイデアがあったら、それが最終的にどうなるかわからなくても、とにかく形にしていくといった感じでしょうか?
山下 作品のヴィジョンは、割とはっきりしていますけどね。ただうまく行くかどうかは分からないけど、その上での偶然性もまた事実というか。何かが目の前で起きていくことが面白いんですよね。
小林 絶対やってのけるぞ、みたいな妙な自信というか確信はありますけどね(笑)。あと、結果自分たちが起こした事実がどういった意味合いになるかは、見る側の判断もあるでしょうしね。おそらく、僕たちは見たことのない事を起こすのが好きなんでしょうね。その見たことのない事というのは、実際やってみても利益がないのに、すごく大変なことだったりする。なんとなく知っているんだけど、利益がないからやってこなかった事を実際にやってみようと。ただし気持ちの部分は一貫していて、この人間社会では起こりえない事を起こしたいっていうのがありますね。
小川 作品の中のパフォーマンスを自分たちで行なうことについては、なにかこだわりのようなものがあったりしますか?
山下 基本的にあまり他人は使わないんですよね。
小林 制作のキッカケは、自分たち自身でリアリティーを掴みたいというところから始まっていて、ダイレクトに何かと接触し、そこで事を起こしてみたいというのが原点としてある。だからある現実の中に突入していくこと、それ自体が快感だったりするんです。
小川 お二人の作品には隙がないというか、自分達がやりたいことが明確で、それをどうやったら最大限に見せられるかがすごく考えられている印象を持ちます。この作品はこういう作品です、というのが大変わかり易い。作品の方向性については、お二人で相当話し合った上で、実際の制作に着手するのですか?
小林 制作について二人で話をしても、分かっているようで、実は結構ズレがあるんです。でもまずは、二人の間で通じることじゃないとはじめられないんで、結果的には、すごく客観的なものが出来てくる。あと、海外にずっといたこともあり、そこでは言葉が十分に通じなかったんで、作品だけ見せて通じるものを作るようにしてきたという経緯はありますね。映像だけ見せれば、言葉がわからない人でも通じるような作品。
小川 それは簡単なようでいて、本当はすごく難しいことですよね。「アート作品だからわかりにくい部分があってもいい」としないのは、すごくストイックなことですよね。ただ、二人の作品は完成度が高い反面、やっている内容自体は下らなかったりとか笑える要素があったりしますよね。それは意識的に狙ってやっているのですか?
山下 結果として、すごく下らないことに凄まじい労力をつぎ込んだりしてます。同じことを言うにしても、真面目に言うよりかはちょっとおかしく言えた方が伝わり方が違ってきますしね。
小林 単純におかしなことをするのが好きなんです。でも、おかしい感じにおかしいことをするのは嫌いで、すごく真剣でクールなんだけど、やっていることがばかばかしい状態がいい。
小川 『Candy』や『infinity』など、単純な行為の積み重ねによって出来上がっている作品もいくつかありますよね。
山下 確かに一時期、積み重ねの労力によって出来上がってくるような作品は多かったですね。でも実際にそう言われてみると、ちょっと違うような気もします。自分の感覚だと、積み重ねというより、どちらかといえばミラクルを起こすことに興味があったんですよ。それをやるためには確かに凄まじい労力がかかって、積み重ねになっていくんですけどね。ただ、それ自体が目的ではなかった。
小林 積み重ねられるのは僕ら自体の時間なんで、自分の時間なんていくらでも費やしてやるぞという気分ですね。それで何かおかしな変化が起きれば、そのことが自分等にとってすごく面白く感じられた。それと、僕たちの作品を見てくれる人の中でも何かしらの変化を起こしたいという気持ちもあって、素材として特定の誰かしかわからないものは使わないようにしています。誰でもわかる、例えば水とかで見る人の中に変化を起こしたいんです。
小川 見る人を選ばないというのは、言い換えれば作品に強度があるということですよね。
小林 作品の素材も、あくまで素朴なものやシンプルなものを選んで、誰にでもわかり易くというのは心がけていますね。
小川 なんてことないことを、作品を通して奇跡的なものに変化させていくんですね。お二人にとって、制作行為は奇跡を起こす為に必要なものなんですか?
小林 奇跡を起こそうとする活動全体が僕らにとっての制作活動ですね。だからそこへ辿り着くための過程も本当はすべて作品なんです。でも最終的に見せられるのはドキュメンテーションとしてのビデオだったり、結果的に残った残骸物みたいなものしかないことが多い。ただ、そういう最終的に残った物を通して、これはなんだろうってしばらくの間、その背景に想像を働かせて欲しいんですけどね。
山下 ちょっとした物に隠されている背景も、それがおかしければおかしいほどその物自体が価値を持ってくるしね。
小林 うん、そういうのが好きなのかも。
山下 だから、割とちいさな所に着眼するというか。制作する上でそれはありますね。すごくつまらないことだったり些細なことにね。
小川 それをどう広げていくかということですね。
山下 価値観として、普通はつまらないとされているものが、私達がなにかをやることで価値を持ってくる感じですかね。
小川 どんなことを作品化するかについては、二人の間で、いわゆるダメ出しみたいなこともあるんですか?
小林 ありますよ。それ全然わかんないとかね(笑)。
山下 あるかも(笑)。
小林 ノートにはアイデアがすごくいっぱいあるんですけど、ほとんどがボツですしね。
小川 でも逆に、作品が社会性を持つために、お二人でやられているということは強みですよね。どちらか片方だけのアイデアでは進めないわけですし。
小林 そうですね。もともと二人で組もうと思ったのも、性の偏りの無い中性的な表現にしたくて組んだのもありますし。でも、どんどん制作していくには大変ですよ。
山下 一人だったらもっと気楽に色々出来るんだろうけど、なんて。。
小林 毎回、制作会議するからね。。
小川 そうなんですね。
小林 作品の意味合いとかまで説明したりしますよ。「なんとなく」とか言ったらダメ。
山下 構想段階から、プレゼン合戦ですね。私たちの作品って、割とほのぼの系に見られることもあるんですけど、実際は、まあ戦いですよ(笑)。
小川 「毎日、何時からは制作会議」みたいな決まりがあったりするんですか?
小林 それはないけどね(笑)。
山下 生活が一緒なんで、あんまり仕事っぽくやれないんですよね。日常がそういう話し合いみたいになっちゃってて。生活と制作がまったく切れてない。
小林 ただ僕らの表現のわかり易さは、制作自体がそういった日常の延長線上に存在しているということもどこかで関係しているのかもしれませんけどね。
(このインタビューは田中洋平+中島 海による企画「星に願いを。」展に際して行われました。)