2023 ヴィデオ・インスタレーション、約2,000枚のガーゼマスクによるスクリーン(400×585㎝)、4Kヴィデオ(12時間48分)
山下が読み上げるアルファベットを小林が書き連ねていく、約13時間に及ぶパフォーマンスの記録映像。2人の共同作業によって画面を埋め尽くしていく文字列は、2019年12月に中国武漢市で発生したとされるCOVID-19のうち、最初に検出されたウイルス(NC_045512※)のゲノム情報の塩基配列を表す。
ここ数年の間私たちが怯え、従来の社会システムを覆してきたコロナウイルスは、驚くべきことに、データにして僅か29.9キロバイト、29,903字の文字列によって表現される。
目に見えないウイルスを作家が自らの身体を通過させ可視化させるパフォーマンス映像の下には、コロナ禍で急速に普及したオンライン会議でヴァーチャル背景としてよく使用される動画が合成され、その映像は約2,000枚の「ガーゼマスク」を作家自身がミシンで縫製し制作したスクリーンに映写される。
新型コロナという現象を通して見えてきた現代社会の多面的な様相を重ね、作品に定着させることを試みた本作は、この数年間で誰しもが少なからず感じたであろう「わからないもの」に対する戸惑いや恐れ、あるいはそこから見えてくる「人間」についての、山下+小林なりの視点を示してくれる。
※米国生物工学情報センター(NCBI: National Center for Biotechnology Information)が提供している塩基配列データベース(GenBank)上の登録番号。
–神野有紗(千葉県立美術館学芸員)
おもな展覧会
2023 千葉県立美術館(個展)